【SS】昭和の脱獄王は極悪犯か英雄か③

逃亡から4度目の脱獄
終戦まで身をひそめるが終戦後野荒らし警戒中の青年と出会い、逆に相手を殺害してしまう。3日後に逮捕。正当防衛を主張したが札幌高裁で死刑判決が下される。もちろん即座に脱獄を決意。今度は4人が二組で監視するという厳戒態勢が敷かれたが結局1947年札幌刑務所を脱獄。

脱獄の手口
白鳥>「今度もさらに頑丈な部屋だな」
看守>「当たり前だ。壁も天井も特別に補強しておいたからな。扉は俺たちが常に見張ることにした。逃げられんぞ」
白鳥>「ほほう(じゃあ床を狙えばいいんだな)」

白鳥>(床板ジロジロ)「やっぱり隙間があるわ。ここにゴザの芯を入れて…おっ、土がついた。下はコンクリートで固めてないのか。いけるな」

穴掘り決定!

看守>「取り調べの時間だ、来い」
白鳥>「はい。(あそこに釘あったわ)」ヨロッ
看守>「どうした?」
白鳥>釘サッ「いえ、すみません」
白鳥>(うまくいった)

白鳥>「のこぎり作るにはあと鉄板がいるな(キョロキョロ)そこの便器の鉄板がちょうどよさそうだ(ベリッ)」

カタカタカタカタカタ
看守>「白鳥、何やってるんだ?」
白鳥>「すみません、寒いんでつい貧乏ゆすりを…」
看守>「なんだ、貧乏ゆすりか」
白鳥>(チョロいわ。この調子で床板を外そう)

3月31日夜。
白鳥>「床板も外れるようになったし死刑になってはたまらん。さっさと脱獄しよう」
床板ガタッ
白鳥>「よし、布団を膨らませておけばしばらくは気づかんだろう」
白鳥>「行くぞ」
指と食器で穴を掘っていく。

白鳥>「指が痛い。…血が出てきた。しかし諦めんぞ!」

2時間後。
白鳥>「外に出れた。中塀があるが雪が積もっているから雪を登れば簡単に越えられるな」(ヒョイッ)

―逃走完了―


脱獄後から再逮捕まで
白鳥は札幌郊外の山に潜んでいた。

1948年1月19日夕方。琴似にて。
白鳥>「今日は市街地でも歩いてみるか」

警官>「職務質問です。ご協力お願いします」
白鳥>(適当に嘘でもついて逃げるか)

質問に答えた後。
白鳥>「あの、煙草をもらえませんか?」
警官>「ああどうぞ」
白鳥>(高級な「ひかり」だ)
警官>「火も貸しますよ」
白鳥>「ありがとうございます。…ああ、うまいなあ」

一服後。
白鳥>「煙草ありがとうございました。私の名前は白鳥由栄です。札幌刑務所を脱獄しました」
警官>「えっ」

―再逮捕―


その後の白鳥
札幌高裁で審議が再開され、一部白鳥の主張も認められ懲役20年の判決。
府中刑務所での服役となる。ここの所長は白鳥が小菅刑務所にいたときに心酔していた人物であり、白鳥の扱いも他の受刑者と同じになった。
白鳥はここでは脱獄の必要性を感じなかったのか、模範囚となり1961年に仮釈放された。
1979年心筋梗塞で死亡。71歳。

もてはやされる脱獄犯
少し前に愛媛で脱走者が出たときのように囚人が脱獄したとなればまずお金を全く持っていないので万引きや空き巣など何らかの犯行を重ねなければ生きていけない。周辺はいつ犯罪が起きてもおかしくない状況に追い込まれるのだ。それはとんでもなく迷惑なことに違いない。
最初の青森を脱獄した後に捕まったときは白鳥を一目見ようと青森署の前に野次馬が集まり、最後の札幌のときなどはマスコミにまで「稀代の脱獄魔」ともてはやされ、子どもたちの間では「白鳥ごっこ」なるものが流行っていたそうである。
ここまでくると「迷惑な脱獄犯」ではなく「体制にたった一人で刃向かった英雄」という位置づけに近いのではないか。
1947~48年頃と言えば戦後の何もない中、GHQが幅を利かせていた時代だ。まもなく戦犯を裁く極東軍事裁判が開かれるという中、人々の閉塞感は半端なかったに違いない。
そんな中、毎回必ず脱獄してしまう天才が現れたのならそこに希望を見出してしまう人も確かにいたのかもしれない。

最後に
これだけ脱獄を繰り返していたのだから真面目に服役する気があったことの方が驚きである。どちらかというと「条件が合うなら服役してやってもよい」といった感じだ。とんでもない上から目線の囚人だがそれが許されてしまうのがこの白鳥という男なのだろう。

これだけの洞察力と発想力があれば別の分野で何か成し遂げることもひとかどの財を築くこともきっと出来たはずだ。

ただ青森の田舎に生まれて幼少時に父親が亡くなり、そのまま引き取られた先で子どもの頃から働いていたというからまともな教育はほとんど受けられなかったに違いない。それがあまりに惜しく、同時に教育を受ける機会が今よりさらに平等ではなかったことを痛感させられる。

また防犯カメラも赤外線センサーもなく、脱獄犯の顔をテレビやネットでリアルタイムに全国に届けることもできなかった時代は今よりずっと逃亡には有利に働いただろう。だがこの男はもし現代に生きていたとしても処遇に不満を覚えたが最後、とんでもない方法で警備の目をかいくぐりきっと脱獄していた。

そう考える方がしっくりくるのだ。

0 件のコメント :

コメントを投稿